覚悟を持って挑む

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これまでトップアスリートの「勝つ心」を紹介してきた。

どの選手にも確固たる意志とぶれない軸がある。それは自身の競技人生の中で全て経験してきたものから紡がれ、積み上げられている。

競技は異なれど、どの選手も実践から学び、現場から感じたものを自分のモノにしている。

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そして今回は少し特殊に感じるかもしれない。

これまでメンタルの強さ、強い心や安定した心を紹介してきたが、今回の選手はメンタルの強弱は頭にない。競技は「柔道」。スポーツでもあり、命を懸けた格闘技でもある。

’16年のリオ五輪・男子73kg級金メダリストの 大野将平 選手。

彼の心の強さとはー。

       (写真:林敏行撮影)

 

楽しむことを捨てる

「楽しい柔道とは決別しました」

この大野の言葉の裏には、「楽しんだ」柔道での痛い敗戦があった。

2018年の4月に全日本選抜体重別選手権でのこと。その準決勝で憧れの先輩、海老沼匠選手との一戦があった。海老沼選手と初対戦ということもあり、大野の心の中には「楽しもう」という気持ちがあった。しかし、合わせ技一本で大野は敗れる。

「やっぱり、楽しんでいる場合ではない。畳にたった時にそんなことを考えるのは、無駄でしかないんだ、と」

この一戦から大野の頭には「楽しむ」という言葉がなくなった。

 

メンタルの強さは覚悟の証

「僕はメンタルについて考える時、覚悟という言葉をよく使います。それは攻撃的に、強気に戦いたいと思うから。柔道は格闘技、殺し合いをするくらいの気持ちで戦わなきゃ勝てません。そうした覚悟が、試合が近づくにつれて自然と固まっていくわけです」

大野の心に「覚悟」が灯ったきっかけもある。

リオの4年前、天理大の先輩でロンドン五輪に出場した穴井隆将がいた。大野はその穴井の実力、練習量、稽古への熱心さから五輪でも金メダルをことは信じて疑わなかった。しかし結果は2回戦敗退。

大野はこの現実を目の当たりにして、「オリンピックは異常。この舞台で勝つには自分が異常になるしかない」と稽古に臨む気持ちが変わった。

その変化はすさまじく、物凄い気迫だったという。それは監督とコーチに止められるほどのものだった。

「稽古をしないと不安で不安で仕方がなかった。とにかくやり切ったという自信が欲しかった。めちゃくちゃ練習をやって、明らかにオーバーワークなんですが、当時の僕はそうするしかなかったわけです」

尊敬している先輩の五輪での敗北から、「異常」に打ち勝つために、自らを追い込んだ。追い込むしかなかったという方が正しいかもしれない。自分は追い込んだという気持ちを、練習をやり切ったという事実で埋めるしかなかった。

大野の心の強さを感じたのは、「僕以外の全ての選手が強運に恵まれていても、僕に圧倒的な実力があれば負けない」という言葉だ。

ナンバーワンの選手だと思っていた先輩の敗北から、自らを奮い立たせた。圧倒的な練習量をこなせる裏には、「強い」を通り越した、「異常で不動」なメンタルがあった。

    (写真:西日本新聞

 

想定外を想定内に

覚悟のメンタルのから、現在の大野は一歩先をいく。

「リオに向けてめちゃくちゃ稽古をしていた僕は、コップからあふれるくらい水を注いでいるようなものでした。でもリオが終わってから、考えを変えました。今度はコップを大きくする作業を重視するようになったわけです」

リオで金メダリストに輝いた大野は、当然世界中の強敵たちが対策を練ってくる。あらゆる変化や壁の前に屈することなく、勝ち続けるには「不動」の精神力が必要だ。

そのためにもっと大きな器を手にして、さらなる高みに移行としている。

「意識しているのは【想定外を想定内にする】ということ。コップを大きくすることで、全てを想定内に収めることができる。そうなると何が起きてもぶれず、慌てることなく対処できるはずですから」

 

大野は自衛隊への体験入隊をしたりと、好奇心も旺盛だ。

「何事も知らないよりも知っておいた方がいいと思う。いろんなことを経験しておくことで、予期せぬことに対応できる。柔道の試合なんて、予期しないことの連続ですから」

未知の世界を知り、経験を積み重ねることで、自分が持つ器をさらに大きく、もっと上へ。

           (写真:Sportiva

 

〜まとめ〜

メンタルの強さは覚悟があるかどうかで決まる

未知の世界を経験することで、動じない心を手にする

 

柔道というひとつの道を追求する【求道者】のように映る。

スポーツの域を超えて、人としての生き方、生き様を示している印象だ。

大野は自身の敗北ではなく、尊敬する先輩の敗北から教訓を得て、さらに自分に対して厳しくなった。異常な状態こそが、勝利への条件だと言い聞かせた。楽しむことも捨てた。大野が描く先にあるゴールはまだまだ見えない。

心から柔道を愛し、トップに立つことに飢えている。同時にもう一度トップに立つ難しさは十分にわかっている。

そんな逆境に見えるような状態に、彼の「覚悟」が試される。

 

 

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