1ショットで決した勝負

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ロジャー・フェデラー

数年の間、テニス界の王者にも君臨したスーパースターである。

 

’04年2月、世界ランク1位の座についてからの数年間、ラファエル・ナダルとの2強時代を築き上げてきた。’11年には新たに台頭してきたノバク・ジョコビッチに世界王者の地位を譲ったものの、当時の対戦成績ではフェデラーが優勢。ランキングの順位は譲ったものの、実績・人気ともにフェデラーは劣らない。何度も対戦を重ねてきた2人の関係性は、他にはない特別なものだと評される。

そのうちの1戦、’11年のUSオープン準決勝での試合は名勝負だった。

 (Photo by Marcelo Endelli/Getty Images)

 

衝撃のワン・ショット

大接戦の試合だった。第1セット・第2セットを立て続けに制したのはフェデラー。その勢いのままゲームを制するかと思われた最中、新王者のジョコビッチの反撃。第3セット・第4セットはジョコビッチが制する。

均衡状態の試合、ついにピリオドが打たれるー。

その勝利が目前にあったのはフェデラーだった。ついにマッチポイントを獲得したフェデラーは、最後の重大局面、一瞬の間に、自身の最も得意とするシチュエーションを組み立てる。

 

ファーストサーブをワイドに打ち込み、相手をサイドに追い出しオープンコート作ってから、自分に優位な状況でラリーを組み立てるー。

 

プランは完璧だった。フェデラーの脳内にはこのイメージが出来上がっていた。重要な第1ショットのサーブを鋭く打ち込み、確かに、ジョコビッチをサイドに追い込んだ。

次の瞬間、フェデラー、そして詰めかけた2万人のファンの誰もが驚く光景を目の当たりにすることになった。

ジョコビッチは、フェデラーが次のプレーに備える準備を与える隙も与えない程の、強烈で、鋭いリターンを叩く。そのボールはフェデラーの足元を一瞬で切り裂いたのだ。

見事なリターンエース。

そのプレーの直後、ファンはその日一番の喝采を浴びせ、ジョコビッチを称賛した。

しかしこのプレーはファンが思うよりもずっと大きな衝撃・ダメージをフェデラーに与えることになった。


      【フェデラー(左)とジョコビッチ(右) 写真:テニスマガジン】

 

無意識の世界から意識の世界へ

「多くの人がメンタルという言葉を使う時、選手が自覚している心情を指しているかもしれません。でも実際には、メンタルと言われるものの多くは潜在的な脳の働きの結果であり、意識はそれらをモニターして、後付け的に『こういうことが起きた』と認識しているに過ぎないんです」(number 1007号 『メンタル・バイブル 2020』 NTTコミュニケーション科学基礎研究所 柏野牧夫より抜粋)

スポーツ脳科学の柏野氏はジョコビッチが放った一打が、フェデラーにどんな影響を与えたのか、推察をした。

そこに、超一流アスリートだから起こり得る「予測と現実の乖離」があると分析したのだ。

 

優れたアスリートの突出した能力の一つに、【潜在的な予測能力】がある。これは未来の出来事を無意識的に察知する力と言い換えられる。

一般人には信じられない能力だが、これまでの圧倒的な練習や実践量に裏打ちされたデータと現状を照らし合わせ、現実に先んじて無自覚的に肉体を動かす。身体が勝手に反応するという状態を残すことができる。

 

では、ジョコビッチのあのショットは一体フェデラーに何を起こしたか。

あの瞬間、フェデラーの脳にはサプライズが起きた。フェデラーは、今まで積み重ねてきた経験の中にある予測モデルをもとに情報選択、記憶、学習をしてきた。そこに予測モデルの範囲外の出来事が起きたがために、無意識下で行われていたことが解消され、意識下の世界へと引き摺り下ろされる。

柏野氏はこの状態になると、「脳が緊急モードに入り、それまでとは全く別物になってしまう」と解説した。アスリートが意識の世界に陥った時、「過剰修正」をしようと試みる。うまくいかないことを修正しようとするが、意識の力が強過ぎて、やりすぎる修正を行ってしまうのだ。

 

たった1つのショットがこれまで絶対的だった王者の思考を狂わせ、修正を許すことなく、そのまま勝負を決定づけるものとなった。


             (写真:THE TENNIS DAIRY

 

〜まとめ🌱〜

トップアスリートのメンタルは、潜在的な予測能力で支えられている
✅いかなる時でも結果を出すには、起こり得る事象は全て「予想範囲」に収めることが重要
いろんな場面に対応できるための圧倒的な練習量・経験量が必要

 

今回はトップ中のトップ、世界最高峰でしのぎを削るアスリートのメンタルについて紹介してきました。

正直、MINEにとっても驚きの内容が多々ありました。これはトップアスリートがどれだけ高いレベルで競技に取り組んでいるのか、脳科学の観点から素晴らしい発見でもあります。そして一流であればあるほど、強く、そして繊細なメンタルであることもわかります。

逆に言えば、トップに君臨している選手を打ち負かすために、チャレンジャーは王者の予想にはない、想定外のプレーをすることが一つ勝利の策になるかもしれません。

これは決して簡単なことではありませんが、どんな選手にも特徴があり、強みと弱みが存在します。その特徴を研究し、相手の最も得意とするプレーの裏をかく。そんなことができれば、フェデラーがジョコビッチにされたように、パニックを引き起こすことにつながるかもしれません。

テニスのように、タイムや記録ではなく【相手と対峙する】スポーツでは、相手選手のことをよく研究することが重要ですね。

 

 

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