マイナースポーツを盛り上げる【元トップアスリートのマネタイズ戦略】

Sports
Sports

2008年、北京五輪のフェンシング男子フルーレ個人で銀メダルを獲得し、一躍有名になってアスリート【太田雄貴】、選手でのキャリアを終え、引退後どんな活動をしているのか。競技人口6,000人の未だマイナー競技と呼ばれる、フェンシングで世界のトップレベルにまで上り詰めた。マイナースポーツで注目を浴びた、その太田にしかできない改革があるー。

 

マイナースポーツの勝ち筋は?

(写真:SPREAD

 

太田が日本フェンシング協会の会長になって丸3年。組織のトップに立ってからの改革は、高く評価されている。

大会運営側も既存の枠組みを超えた。分かりにくいとされる判定をLEDの点滅で補助し、選手や審判の心拍数を大型ディスプレイに表示し、ライブDJを器用するなど、「大会」というより「ショー」と呼ぶにふさわしい演出を盛り込んだ。

会場には演劇やライブに使われる場を選び、そこでの戦いの様子はネットで生中継。工夫を凝らした結果、入場料を値上げしたにもかかわらず、2017年、全日本選手権の観客動員数は前年比で約10倍となった。

しかし、野球のように観客を多く球場に入れて、ビジネスとして成功させる、このことだけを真似しているだけではマイナースポーツは生き残れないと感じている。

マイナースポーツはどうやって勝ち筋を見つけるか?

太田は考え続けた。「目(の数)を集めるしかないと考えました。ただ、自力で集められる競技が限られています。日本では、野球・サッカー、フィギュアスケート。それ以外は代表戦でもない限り、ことらから、多くの目があるところに出ていかないといけない」

この解のヒントが「コロナ」にあったのだ。

「今、一番“目”を集められていて、どこへでも中継もできるのが、オンラインゲームなんです」

太田はバトルロイヤルゲーム『フォートナイト』の名を挙げた。世界中にファンの多いこのゲームの空間で、今年4月、人気アーティスト米津玄師がライブ配信を行った。視聴できたのはフォートナイトのプレイヤーだけだが、それでも同時視聴者数は最大1,200万人以上に達したという。

「1,200万人ってちょっとした国じゃないですか。これだけの人を集めるのは、テレビでも簡単ではないでしょう。でもゲームならできるし、もしも一人が100円を払ったら12億円です。これができるのは今、オフラインでの認知と人気のある人だけではありますが、ゲームというすでに人の目が集まっている場 ー 日本なら『あつまれ どうぶつの森』の中で試合をする。その可能性を否定しないほうがいいと思っています」

フェンシングもすでにゲームとのコラボレーションを経験済みだ。

2019年の全日本選手権男子エペ決勝のゲームパートナーは、「ドラゴンクエスト」シリーズで知られるスクウェア・エニックスだった。決戦直前に1分30秒だけ『ドラゴンクエストウォーク』のCMを流し、協賛について明かした。そしてそこから音楽もグラフィックも一変させ、会場をドラクエワールドと化した。

太田は好感触だった。

「見た人には『ドラクエ、凄かったな』という印象を残せたし、ほかの企業も『フェンシングで面白いことをやりたい』と思ってくれたはずです」(引用元:Forbes Japan10月号)

 

今、スポーツも人の集まるところへ投資する動きが強まっている。太田の言う、目の数が多い場所をまずは知るべきで、その領域にどう参入するか。

これはメジャースポーツも例外ではなく、うかうかしていられない。

皆がセンシティブにいろんな分野から吸収してこれるとスポーツ界も大きく変化するだろう。太田はマイナースポーツ出身である分、その察知能力に優れているのかもしれない。

 

アスリートと経営者の共通点

「僕、スポーツとスタートアップは似ていると思うんです。理念をめちゃくちゃ大事にしているし、それに、結果を出さなきゃだめじゃないですか。僕も子供の頃から、親という投資家から“鬼投資”されていて、なんとか返さなきゃというプレッシャーもありました。経営者も同じだと思います。個人でやっているんだという気概も同じ」

「もしかすると、全てをビジネスライクにすると成り立たない可能性もあると。地域のスポーツ少年団でボランティアとしてコーチを務めている人に、正当な対価を支払おうとすると、桁が2つくらい上がって保護者には負担できなくなるかもしれない。でもコーチはいま、お金はほかの仕事で得ていて、スポーツの指導では、自分が生きているという『実感』を手にしている。すでにエコシステムが成り立っている可能性があるんです。
だからこそいびつな部分もあったのですが、ビジネスが完全にフィットするのかというと、そうではないのかもしれない。なので、未来から見たときには、僕がこれまで協会でやってきたことは、古く映るかもしれません」

スポーツも0から作り上げていくものだ。

そのスポーツをすることでどうなっていきたいか。どのように成長していきたいか。

特に指導者や運営側はその還元先のことまで考えていかなければ、競技の未来を支えることはできないのかもしれない。

太田がこれから実現していくことは、未来のスポーツ界にとって、スポーツが人気を維持するためにとても重要なことになる。

 

 

タイトルとURLをコピーしました