2020年春、人々が想像もしなかった世界になった。
コロナウイルスの脅威は世界中を混乱させ、スポーツを止めた。スポーツが開幕する季節にスポーツは中止することを余儀なくされてしまった。
その最中、やり場のないアスリートたちは何を思い、そして何をして過ごしたのか。
Contents
筒香嘉智の過ごし方
空白の時間に何をするか
3月25日、コロナウイルスの影響で一時帰国。帰国後、2週間の自主待機期間を経て、自宅近辺でトレーニングを行った。自身初のメジャー開幕というのに、この事態。一見、運がないというかここにマイナスの印象も受ける。
しかし、筒香はこの状況を決してマイナスには捉えない。
「この時間をどうやって過ごすかが大事」
そこには子供たち、野球少年たちへの熱いメッセージがこもっていた。
「中学2年生ぐらいから急激に身長が伸びたための『成長痛』や、他の故障に悩まされた時期がありました。その間はほぼ1年近く、ほとんど野球の練習ができない日々が続きました」
そして当時、筒香は兄からこんなことを言われた。
「怪我する前より野球を上手くなるためには、どうやったら良いかを考えとけよ」
何が正解かはわからない中、野球少年は家のなかで座りながら柔らかいボールを投げたり、一人で壁当てをしたり…いろんなことにチャレンジした。
当時のこのチャレンジを一つの「気づき」として現在に活かされていると振り返っている。
「バットを振っているだけではわからないこともある。野球の練習以外のトレーニングをすることで、逆に野球が上達するために気づくことが一杯あるのです。
どんなスポーツでもまず大切なのは、自分の身体をしっかりと操れるようになることですが、競技に特化した練習ばかりだと、気づけないことが出てきてしまうのです。僕は野球ができなかった1年間に、体操に真剣に取り組むことで、今までと違った自分の身体の動かし方、感覚に気づくことができました」
野球ができない時間は、必ずしもマイナスではない。むしろ、筒香は自分の身体の動かし方や変化に気づきやすくなり、野球へプラスにはたらいた。
筒香はこの身体の変化に気付いた状態を、「人が本来持っているセンサーみたいなものが磨かれた感覚」と表現した。アスリートの感覚は一般人のそれよりもはるかに敏感とされているので、特にこの変化が如実に感じられたのかもしれない。
自分のプラスになりそうなことにチャレンジしよう
「学校にも行けないこの時間を使って、普段はなかなかできないことにチャレンジして欲しいのです」
筒香は子供達にいろんなことへのチャレンジすることの重要性を説く。
そして、このコロナによる活動自粛という今までに経験もしなかった状況を、「チャンス」と捉えることを伝えたい。
「自分の健康を守り、家族や周囲の人の安全を守るために責任ある行動をする。これがまず私たちに求められ、今やらなければならないことです。いつもの生活は失われ、野球どころではない。でも、その中でもやり方によっては、これまで意識できなかった新しい自分に気づくことができます。いまがその気づきのチャンスなのです」
筒香自身も経験したことのない、このシーズン開幕までの長い時間を、普段と違うアプローチや野球以外のことでも様々なことを試している。
こうなってしまった状況を受け入れ、その中で自分ができるベストの行動をしていく。
その行動を通して、必ずしも野球ができなくとも時間は無駄にはならず、「この機会があったから自分は変われた」「この時間でこれに気づけた」という、自分にとってプラスの時間にできることを筒香は期待している。
そのチャレンジではなんでもいい。後から気づくことだってある。まずは自分にとって少しでも良さそうなものに、気軽に取り組んでみよう。それがどうだったかは、その後感じればいい。
まとめ🌱
✅自分の競技以外のことからも、競技に活かせる学びを得ることができる
✅怪我や環境によって、思うように練習ができない時こそ、新しい気づきを得る最大のチャンスである
筒香のマインドを支えている要因として、少年期に兄から受けた「怪我する前より野球を上手くなるためには、どうやったら良いかを考えとけよ」という言葉は大きかったのではないかと思う。
今の取り組みや行動が、必ずしも成果に直結し、すぐに成果が出るかはわからない。むしろすぐに結果が出ないことの方が多いのではないだろうか。しかし大事なのは、「どうすれば上手くなるか、成功するか」と頭をフル回転して考え続けること。
きっとこの思考の過程で、いろんなことにチャレンジして、いろんなことに気がつくことができるのではないか。
筒香はコロナウイルスによるメジャーリーグ開幕延期という最大のピンチでも、動じずこの姿勢を貫いた。
今シーズン、メジャー1年目にまた新しい「筒香嘉智」が見られるはずだ。