一番の敵は自分

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絶対王者。

負けることに厳しく、自らに課す期待値、理想値がこんなにも高いアスリートは見たことがないかもしれない。

「勝ち」に対してのこだわり、自分の演技に対するこだわりがとてつもなく強い。

頂点を極めてなお、自分の理想を追求し続ける。

 

羽生結弦

 

絶対王者の理想像とは?

 

金メダルをかける羽生選手【写真:AP】

 

 

■「世界一」にかける

初めて世界一をかける対あきに出場したのが、14歳のとき。’09年世界ジュニア選手権で、味わったのは「悔しさ」だった。ミスが出て12位に終わった直後のインタビューでは、地団駄を踏み、悔しさを爆発させた。

この時の試合が羽生にとって、大きなターニングポイントになった。

「本当に特別な試合で、僕は変わりました。強くなりたいと心から願いました。上位の選手たちの練習を見ていて、足りなかったのは精神的な部分です。練習での限界の設定が変わりました。1秒でも多く滑るというよりも、1個でもジャンプを成功するように、という気持ちになりました。(出典:Number 1000号『ナンバー1の条件』」)

羽生は練習にかける時間数ではなく、その1回、その1ジャンプに重きを置いた。

だから練習中も試合同様の鬼形相でやっている。やっているというよりかは自然とそういう表情になっている。

試合での成功率を上げるために、練習での成功率に強く拘った。

 

「世界一」のポジション。

「今世界一と言われる人に勝てば、そこが世界一です」と語った。

 

当時世界一の評価を得ていたのはパトリック・チャン。羽生はチャンを観察し、チャンを真似ることで世界一の景色に近づこ王とした。

「いま世界でスケーティングが一番うまいとされているチャン選手を見ないわけにはいきません。」

その当時から見ていたものは世界一の先にあるものだった。

14歳の頃から着実に力をつけてきた羽生は世界選手権などで順当に結果を残し、ソチ五輪の前哨戦といわれる12月のGPファイナルに臨んだ。

これまで、王者に君臨していたパトリック・チャンと幾度か対戦したが、歯が立たなかった。

「パトリックに勝ちたいという気持ちが強く、自分のことを客観視できていませんでした。次は勝ちたいという気持ちよりも、まずは自分の演技をしようと考えたいです」

心と視点は【自分自身】に向いていた。

「自分の気持ちをしっかり自己分析できていて、どういう気持ちのときにどうすればいいのか、書き出して理論を作ってきました」

羽生の心持ちや考え方はこの頃から完全に変化していた。

あくまで見るのは自分自身。過去の自分と今の自分、そして未来の自分への時間を大事にしているのがわかる。

 

「今季は他の人を分析するのではなく、他の選手がいた上での自分がどうなるかを分析することをしました。昔は勝ちたいということばかりを考えていました。それは向上心の源として大事だけど、自分に気持ちを向けることのバランスも大事だと思うようになりました」

 

最大の敵は他人ではなく、自分自身。自分の内側にある心。

(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 

■一番へのこだわり

ソチ五輪。ショートプログラムでは完璧な演技で史上初の100点超えを記録。首位に向けて、これ以上ない最高のスタートを切った。しかしフリーではミスを連発。目に見えない重圧があったのか、普段はあまり見せることのないミスもあった。金メダルの希望も遠ざかっていたが、最大のライバル、チャンがそれ以上のミスをする。結果、金メダルは羽生のもとへ。見事、日本人初、五輪で優勝を飾った。

「自分の能力を発揮できなかったので、嬉しいですけど悔しいです。すごい緊張して、すごい難しい舞台だと痛感しましたし、自分に負けたと思いました。五輪の怖さ、五輪の魔物というものを感じました」

自身の演技には納得にいかなかった羽生。しかし、肩書きは紛れもなく日本人初の金メダリスト。周囲の期待や見方も変わった。一気に日の丸を背負うことになった羽生は、重圧も感じながら「五輪の金メダリストになったからこそ、震災や復興のためにできることがある」と責任を全うしようとした。東日本大震災から3年経ったときに、単なるフィギュアスケートのアスリートとしてだけでなく、「影響力のある」人物として、自らの使命を感じていた。

 

勝負に「勝つ」という信念に、「進化」する意思が加わった。

基準はソチ五輪で叩き出した得点。チャンや順位へのこだわりはほとんどない。

「今回出した自分ショートとフリーの得点が、これからの自分へのプレッシャーになる。これを乗り越えるために日々努力したいです」

頂点を奪っていても、やはりその欲望が満たされることはない。

「どの選手よりも一番、勝ちたいという気持ちが強くあります。しっかりと頂点を追いながら、頑張っていきたいです」

そしてソチから4年後、平昌五輪では演技を終えた瞬間に「勝った」と確信した。それはソチのときに「金メダル、終わった」と感じたものと真逆だった。自分自身に勝利した結果だった。

(写真:朝日新聞社)

 

 

〜MINE’s EYE〜

オリンピックの舞台で2度の金メダル。世界一。

どちらも同じ金メダルで同じ世界一の景色だが、その心境や見え方は全く違ったものだった。

 

羽生選手を調べていく中で感じたことは、【自分への厳しさ】

ここまで厳しい人はそうそういないように感じる。

各大会で結果を残しても満足する様子がない。焦点が順位や点数ではなく、自分自身の内側に向いている。自分の納得できる演技が出来たかどうか。

それを、パトリック・チャンとの戦いの中で体感し、重要だと気がついた。

 

「過去と他人は変えられない。しかし、未来と自分は変えられる。」

 

他人との競争に囚われたとき、それは操作出来ないものを結果に求めてしまうことになる。

羽生は他人が関わることにゴール設定をしていない。

 

ミスが出て金を獲得したソチ五輪と、完璧な演技で獲得した平昌の金が全くの別物だったことが印象深い。

そして一人のアスリート、人間としての強さを感じる。

ソチでとった金の余韻に浸っていたら、平昌での金は絶対にあり得なかった。

 

自分自身の結果に向き合い、自分自身への重圧と限界に挑み続ける。

私がアスリートに刺激をもらい、そしてこれからも応援し続けたい理由がここにある。

 

自分もこんな生き方をしたい。

 

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