「二刀流」
野球の本場、アメリカのメジャーリーグでもこの言葉を使える選手は、いま世界に一人しかいない。
大谷翔平
不可能を可能にしてきた男が考えるナンバーワンとは何か?
Contents
野球選手としてのナンバーワンとは
「ナンバーワン」のイメージ。
「何にを持ってナンバーワン、というものがないのが野球だと思います。野球は団体競技ですから。いろんなデータがある中でトップの数字が多いからナンバーワンだと言われているんであって、違う見方をすれば違うナンバーワンが出てくると思うんです(出典:Number1000号 ナンバーワンの条件)」
大谷自身が挑む、「ピッチャー」と「バッター」の両立。
それぞれに選手の成績や傾向を示す指標データが存在する。一概にひとつのデータを抜き取って、トップ成績の選手を「ナンバーワン」と表現することはできない。それはそのデータに対する見方によって変わる。
バッターとしての優秀さ、個人の成績をみる一つの指標としてOPS(出塁率+長打率)という指標がある。例えば出塁率は安打や四球など、とにかく塁に出る率を測る。試合の流れ、相手へのイメージを考えると、状況によっては安打と四球では全く価値の異なる結果だという。
「(OPSだけでは)ランナーが一塁にいるときに、一、二塁になる四球と、一、三塁を作れるライト前ヒットが同じになってしまいます。でもこのケースでは相手に与えるダメージが全く違いますから、そこが一緒にされるのはどうかなと感じます。でも、ヒットより価値がある四球もある。ボールを4つ選ぶということは相手に4つ投げさせるわけですから」
確かにデータ上は同じ数値であって、状況によって、相手に与える影響・ダメージが異なることは往々にしてあり得る。大谷自身はその違いを肌で感じていた。
第一線で戦うプロのアスリートがこのように表現しているので、競技によっては「ナンバーワン」を定義づけるのは簡単ではなさそうだ。
【写真:Getty Images】
ナンバーワンまでの道中を楽しむ
データで見る【ナンバーワン】
野球選手の「評価」をする一つの指標として散々「数字」の話をしてきたが、大谷は二刀流の道を選んだ時から、数字にはこだわりがないという。
「一年、一年の結果は自分が何を残せたのかという指標として気にしますし、去年と比べてどこが良くなったのかということを示してくれる重要な数字だなとは思います。でも現役を終わるまでにどのくらい打ちたいとか、いくつ勝ちたいとか、そういう気持ちはまったくありません。」
では、現役選手でいられる間、野球選手としてこだわるポイントはどこにあるのか。
「現役でいられるうちにフィジカルも技術も、獲得し得るものは全て獲得して終えたい。そこだけなんです。選手としての寿命も限られていますし、全部というのはほぼ無理だと思いますけど、全部できるようになったら面白いなという、その感じがいいんです。子供の頃と同じなんですよ」
大谷には「理想の姿」がある。子供のような気持ちであれもこれもできるようになりたい、という好奇心や向上心が溢れている。日本一を経験したり、日本最速(165km/h)を記録したりということを経験しているが、それらが彼を満たすことは全くない。
見ている人たちをワクワクさせる選手はそうでないといけないのかもしれない。「次は何をするんだろう」という見ている者の予想を凌駕するようなプレー。それが実現できるのが大谷だ。
本当の意味での【ナンバーワン】を楽しむ
スポーツ雑誌”number”の取材で、これだけ多くの「一番」を経験している選手から、意外な言葉が発された。
「綺麗事でもなんでもなく、一番になった瞬間のことって、あんまり覚えてないんです」
!?
一番になった瞬間に得られるであろう達成感や満足は、アスリートにとって、とても重要な瞬間だと思っていた。その瞬間を覚えていないというのは、その結果が満足ではないからなのか、そこにゴールを設定していないからなのか。
それもあると思う。
でももっと大事なのはその過程、「プロセス」にありそうだ。
「その瞬間よりも、そこを目指している日々の方が面白いじゃないですか。練習で何かを思いついたり、何かができるようになったり、こういうふうにやりたいんだけどなと動画を探したり、そういうことの方が面白いし、大事だったりする。それって一番になりたいと思って、一番を目指しているからこその面白さであって、一番になること、勝つことが大事だと思っていないと得られない感覚だと思うんです」
大谷はプロセスを楽しめる選手。
一番になろうとする中で、得られる自分の進化や感覚を楽しんでいる。
「絶対に世界一になるという強い想いがあってそこを目指す日々があるのか、そうじゃないのか」
それが大事で、それによって全然違うという。単に練習したり、その道を楽しむのではない。「一番」を本気で目指そうとしてもがく姿、そのあり方に選手としての重きを置いている。
【写真:ロサンゼルス・エンゼルス】
〜MINE’s EYE👀〜
「面白さ」
大谷自身から何度か出てきた言葉。
大谷はただ一番になることをそこまで求めていない。そこに至る道のりを楽しんでいる。
自身でも言っていたように、「子供のような気持ち」で野球に取り組んでいる。子供の探究心や好奇心には無限のイメージがある。それが歳を重ねて、メジャーリーグに行ってからも、いい意味で変化しないのが大谷だった。
自分自身がゴールを記録や評価、順位に置いていないから毎年のように、見ているファンを楽しませることができる。
今後も人々の予想を超えていくことができる選手。
イチローさんは大谷のことを「世界一にならなくてはいけない選手」と表現した。
それは見ている我々が判断することも可能なのだが、十分にそのポテンシャルと可能性を秘めているのだと感じさせてくれる。
私たちもまず結果を見てしまいがちであるが、そこまでの道中、アスリートがどんな道を辿ってきているのかということに注目してみると違った「面白さ」があるかもしれない。