年間安打記録262本。
2004年にこの世界記録を打ち立ててから、いまだ破られることのない孤高の記録。
これが打ち立てられた時、チームは最下位にいた。消化試合と呼ばれる残りの試合、この時ばかりは唯一注目されたのはイチローにかかる記録更新への期待だった。
(photo:BaseballKing)
「勝つためだけにやっているわけじゃない」
かつてのシーズン年間安打記録の「257」。
ジョージシスラーが打ち立て、それから84年間破られることはなかった。その記録がついに目の前に現れた。日本からアメリカへ海を渡り、その長い歴史に名を残そうとする選手がイチローだ。
当時、同じメジャーリーグで投手をして活躍していた高津臣吾は言った。
「人の考えを超える技術を持っている。打たれないようにするには、対戦しないことしかない」
一方で、イチローの記録更新が近づいてきた時、シーズンMVPを決めるにあたり、「イチローは相応しくない」と評すメディアもいた。
その内容は様々だが、「両翼を守る外野手にしては長打力が低い」、「イチローは過大評価されている」と声が上がった。当然、安打数を見れば数十年に一度の記録、選ばれるには申し分ないが反対意見もあったのだ。
しかしこんな状況でイチローは一定の「マイナス」評価を受けるが、「そんなマイナスの期待が僕にとってはアツいんです」と話す。期待を力に変えるというよりも、「できないだろう」とか「失敗するだろう」というようなネガティブな思いを力に変えた。
そして2004年10月1日、第2打席にセンター前ヒットを放ち、258本、世界新記録を樹立した。
イチローはチームメイトから祝福を受け、その場でもみくちゃにされた。
「これだけ負けたチームにいながら、最終的にこんなに素晴らしい環境の中で野球をやれている。勝つことだけが目標の選手なら不可能だったと思います」
まとめ🌱
✅チームの勝ちだけがプロの仕事ではない
✅「逆境」は力に変わる
ファンがあってのプロ野球ー。
昔から良く聞かれるフレーズ。ファンが野球やその選手をみるのには理由がある。試合に勝つ瞬間を見たいのか、応援する選手がホームラン、ヒットを打つ瞬間か、三振を奪う瞬間か。
一人ひとり異なる思いでプロスポーツの試合は見られている。
当然、選手は勝つことに必死だ。自分の結果を出すことにも必死である。
イチロー選手はその思いを背負いながらも、ファンからの見られ方、期待を強く意識しているのだろうと感じる。今回の記録は自分だけのものではなかっただろう。84年ぶりの更新がかかっている記録、周囲の期待も背負って戦ったに違いない。
本当に感服したのは、そんな中でも聞こえてくる「アンチ」の声を力に変えているという事実。ここにイチロー選手の強さがあるのだろう。
反骨心はアスリートにとっても、あるいは人間にとって重要な心の持ち方かもしれない。
「何くそ!」と思う気持ちが、時にその人の原動力になる。