チームで掴んだ勝利の舞台裏

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記念撮影する中村豊さん(左から2人目)ら“チーム大坂なおみ”(ロイター=USA-TODAY-Sports)
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9月の全米オープン。この大会は今までとは違う意味で注目された大会となった。日本が誇る黒人選手の大坂なおみは、「テニス以外」のことでも戦っていた。

人種差別問題

世界中が多くの課題として抱えている未解決の問題である。大坂はこの問題に自ら考えを発信し、大会に挑んでいた。

アメリカで黒人男性が白人警官に背後から銃撃されて重体となった事件をきっかけに、アメリカでは『BLACK LIVES MATTER』運動が活発になった。

これを受け、大坂は「私はアスリートである前に黒人女性です」と発言し、全米前のウエスタン・アンド・サザン・オープンでは一度、試合棄権の意思を表示していた。

そこから協会の意向もあり、試合は延期して再開。全米へと試合がつながるわけなのだが、その注目の集まる状況下で、大坂は優勝を決める。

この舞台裏を見てみよう。

 

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決勝の相手はコーチの「元教え子」

 

大坂は順当に試合を勝ち上がり、決勝まで難なく勝ち進んだ。

決勝の相手はアザレンカ。大坂とともにグランドスラム優勝を過去に2度経験した、世代の違う元女王である。そして強いメッセージ性を持った2人だった。大坂は「アスリートである前に1人の黒人女性」と言って人種差別に抗議する強い姿勢を、アザレンカは「母親であると同時にテニスプレーヤーであり続ける」という生き方を、その戦いを通して見せていた。

また、この2人には共通点があった。それは現在大坂のコーチを務めるウィム・フィセッテは、大坂との契約前、アザレンカにコーチとしてついていた。

 

2016年全豪での初対戦

大坂がグランドスラムで初めて予選を勝ち上がって四大大会デビューを果たした、2016年の全豪オープン。当時まだ世界ランク127位の18歳だった大坂は3回戦まで進出し、ここで1-6、1-6と完敗した相手がアザレンカだった。

「可能性を持った選手だと思う。とてもパワーがあるし。この先、彼女はもっといろいろと見せてくれるはずよ」

試合結果はアザレンカが圧勝したが、当時からそれ以上に大坂のポテンシャルを感じ取っていた。

そして何より、大坂はこの負けをすでに前向きに捉えていた。

「正直言うと、負けて良かったってちょっと思うの。負けて学ぶことのほうが、勝って学ぶことよりも多いから」

 

フィセッテコーチの存在

大坂と練習をするフィセッテコーチ(=朝日新聞

 

大坂がアザレンカに敗れた当時、コーチとしてアザレンカについていたのがフィセッテだ。

アザレンカはかつて左足や右膝のケガに苦しめられ、ランキングは50位台まで落ちていた。

大坂との初対戦はその怪我によるスランプからの復活途上だった。この勝利を機にその2カ月あまりのちに、サンシャインダブルを達成し、トップ5にランクインする。

サンシャインダブル
…ツアーでもっとも格の高いカテゴリーのインディアンウェルズとマイアミの2大会を連続して優勝すること。これまでこの偉業を達成したのは男女通じて10名のみ。

しかし、さらにそのわずか3カ月後にアザレンカは電撃的に妊娠を発表。フィセッテとのコーチ契約は解消され、ツアーからも離れた。のちに復活を果たすも、ランキングは一時200位台に低迷し、再びフィセッテにコーチを依頼して復活にかけるのは2019年のシーズン。前回ほどの成功ではなかったが、それでもツアーで約3年ぶりの決勝に進出した。

そして大坂とはこのシーズンで対戦している。全仏オープンの2回戦。序盤戦のハイライトと言われた名勝負は、フルセットの末に大坂が勝利をつかんだ。

 

そしてアザレンカとフィセッテの2度目のタッグは1年で終わり、ほとんど間を置かずにフィセッテは大坂の新コーチに就任することに。

フィセッテは決勝前の会見で、アザレンカのコーチを長くやっていたことは有利になるかと聞かれてうなずいた。

「それは確かだ。試合の準備として、僕はいつも相手の戦術を知ろうとしているし、動画と統計から相手のことを理解しようとしているから、それ以前に相手をよく知っているというのは間違いなくプラスになる」

「でもこれは全米オープンの決勝だ。いかに感情をコントロールして大事なところでベストのテニスをしようとするかにかかっている」

 

綿密なデータ分析によるコーチングを得意とするフィセッテは、選手を2つのタイプにカテゴライズする。論理型と直感型。アザレンカは前者で大坂は後者だという。

「ナオミはここぞという場面に直感でプレーする選手だ。もちろん戦術を持ってコートに入る。でもその戦術は、たとえば僕がビカ(=ビクトリア・アザレンカ)に与えるものよりももっと基本的なものだ。ナオミの場合、コーチングはやりすぎず、抑えることが大切なんだ。決勝に向けても細かくいろいろ言うつもりはない。これまでにも彼女は自分の感覚に従ってすばらしいテニスをしてきたからね。僕はそれを信じている」

 

中村コーチの存在

記念撮影する中村豊さん(左から2人目)ら“チーム大坂なおみ”(ロイター=USA-TODAY-Sports

 

大坂を支えた身近な「スポンサー」はもう一人いた。

中村豊、フィットネストレーナーだ。

フィセッテは、大会を通して大坂が極力少なく抑えたアンフォーストエラーに関して、中村の影響が大きかったと述べていた。

アンフォーストエラー
…テニスにおいて、相手のショットによってミスをさせられた訳ではなく、自分に原因があるミスショットのこと。

「アンフォーストエラーはフットワークの問題から起こる。全てはフットワークからなんだ。彼女は本当に一生懸命取り組んだよ。ユタカのフィットネストレーナーとしてのすばらしい経験に助けられたことは大きかった」

 

中村はマリア・シャラポワに長年携わった経歴もあり、テニス選手に対する理解や実績が十分だ。

彼が大坂に与えた影響は大きい。中村は決勝での大坂自身の成長を感じていた。

「決勝が今大会の集大成。負けてもおかしくない展開で、心が折れそうな状態からよく逆転した」

 

まとめ:「チーム大坂」で掴んだ勝利

これだけ注目され、世間に騒がれていても、大坂なおみはまだ22歳。アスリートとして若手の選手だ。

精神的にも肉体的にもまだまだ伸び代があり、これからもっと成長していく選手であろう。

だからこそ今大会のサポート陣営が一つになり、大坂を支え、そして大坂自身がそのサポートに結果で残したことが何よりも印象に残る。

コーチやトレーナーとの連携は相性もある。それも良かったのかもしれない。

いずれにしてもスポットの当たらない“裏方”の人たちの尽力も報われた大会になった。これからもチーム大坂から目が離せない。

 

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